うちの父親は陽気な人である。
ぱっと見、ヤーさんも引くような強面の巨漢、しかも柔道有段者で恐ろしげなイメージを持つ人ではあるが、中身はなんてことはない、ただの陽気なおっさんである。

そんな父は昔から霊感があるらしく、世の中の常識から外れた怪現象を目撃する事が多々あった。
そして、私自身にもそんな父の特異体質は遺伝したらしく、昔から不思議な物を見る事がよくあった。

さて、私が小さい頃から父は自分の子供をからかって遊ぶ事が好きだった。

焼肉屋にご飯を食べに行くと必ず、「ほら、窓の外見ててみ。今からそこを、これからさばかれる牛が逃げていきよるから」と言って窓の外を指差した。

小さな私は当然のように父の言葉を信じ、わくわくしながら窓の向こうを見続けるのだが、牛が逃げていく様を見る事は一度もなかった。

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