6年前の実体験。

私には見ようと思えば霊が見える程度の力と、弱い霊を浄霊する程度の力があります。
そして、それを知っている友人Aからこんな話をされた。

「最近引越ししたBの部屋がやばいらしいから、見てやって欲しい」

やばいらしいってのは何だ?と思いながらも、私はAに連れられBの家へ。
Bと面識の無かった私は、知らない相手に霊がどうのと言っても信じてもらえないだろうし、馬鹿にされるだけだろうと思っていた。
けれど、そうはならなかった。

Bが住んでいたアパートの部屋に入ると、まず最初に飛び込んできたのは御札。
だが、御札は黒ずんでいて効力などとっくに消えている。
私はBに御札をいつ貼ったのか聞いてみた。
すると、一週間前などと言ってきたのだ。
正直、私にどうこうできるような問題ではないと思い、知り合いを紹介すると言った。
けれど、Bは首を縦に振らない。
よく見れば表情が少しおかしかった。
気になった私は、嫌々ながらも霊視をしてみると目の前にいたのはBではなく、全く別の人間だった。

正確にはBに憑いている霊なのだろう。
顔半分が血で染まり、片足が無い。
霊視した状態では、Bが全く見えなくなるほど強烈なもの。
洒落にならないと思った私は、部屋を出ようとした。
しかし、Bに腕を捕まれ逃げる事が出来ない。

「除霊してくれるんでしょ?早くしてよ」

気味の悪いぐらい口が裂けた笑顔で、Bがそう言ってくる。
そこで私は、Aに助けを求めようとした。
だが、何故かAがいない。
よく聞けば、ドンドンと外から戸を叩く音が聞こえる。
この時ばかりはもう駄目だと覚悟を決めた。
少し浄霊が出来るからと調子に乗りすぎてたのがいけなかったんだと。

そんな時、突然携帯の音が鳴り響いた。
音からして彼氏なのは間違いない。
けれど、このタイミングで出ることなどできるはずが無い。

「彼氏でしょ?出てあげたら」

Bがニタリと笑い、私の目の前に顔を近づけてそう言ってきた。
私は震える手で携帯を掴み取り電話に出た。
すると、彼氏はこう言ったのだ。

「目の前にいるのと電話かわって。あと、今どこにいるの?すぐ行くから場所教えて」

私はすぐさまいる場所を教え、Bに携帯を突き出した。
すると、Bはしばらく無言で彼氏の話を聞いた後、部屋の奥の方へ行ってしまった。
それからしばらくして彼氏が来ると、Bを見るなり「これは浄霊するのも面倒やな~・・・しばらく時間潰してきて」と、笑顔でそう言ってきた。

元々私が霊が見えるようになったのも浄霊出来るようになったのも、彼氏に教わったからで、そんな彼氏の心配をするのも悪いのか?と思った私は、部屋を出てAと共にファミレスへ。

そして二時間ほど二人の心配をしながらAと話していると、彼氏から電話が。
Bの部屋に行くと、元気なBと和やかに話している彼氏の姿が。
しばらく雑談した後、私たちは帰ったのだが・・・帰りの車で彼氏に違和感を感じた私は、悪いと思いながらも彼氏を霊視してみた。

見なければ良かった。
そう思わずにはいられなかった。

だって・・・
彼氏の胸元辺りから苦しそうに這い出ようとするBに憑いていた霊が見えたのだから。
私は思わず浄霊に失敗したのかと口を開いて聞いてしまった。
すると彼氏は「あんなん浄霊の準備するのが面倒くさい。食べた方が早いやろ」と笑いながら言ってきた。

呆気にとられた私に、彼氏はさらにこう言った。

「成仏させるだけが除霊じゃありません」

浄霊ではなく除霊。
この時の私にはこの違いがわかりませんでした。

けれど、彼氏があの化物みたいな霊を体の中に入れたことだけははっきりと解りました。
しばらくの間、彼氏が笑った姿がBに憑いていた霊と一緒に見えたんですから。