今これを書いてる部屋の窓から鈴が森刑場跡が見えます。
二十年以上ここに住んでますが何も見た事も、感じた事もありません。

鈴が森刑場跡は特に何もないと思いますよ。
住職が知り合いなので時々そんな話もしますが、住職も迷惑がってます。

泉岳寺の某トンネルで女の人に追っかけ回されたりしてるので、そういうのが見えない体質ではないようです。

あれは96年の夏、翌日の走行会に備えて家の前で車の車高を調整していた。
一通り調整が終わり、足を馴染ませる為に軽く近所を走らせてみる。
海岸通りで八千代橋まで行き、札の辻に抜けて第一京浜を帰ってくる。

なんとなく泉岳寺の手前で左折してトンネルに入っていく。
トンネルの中は高さが1.6m程しかなく、車一台分の車道とコンクリートのブロックに隔てられた歩道が続いている。
暫く進むと反対側からこちらに向かって歩いてくる女の子が見えた。

こんな所を一人で歩いていて怖くないのかな?私はふとそう思った。
その当時の品川駅の東側は今のように拓けてなく、そのトンネルへは街灯も疎らな下水処理場脇の道を15分程歩かなければならない。
男の私でも怖いと思うその道を歩いてきたと思われる彼女に軽く違和感を感じた。

だんだん近付いていくとその違和感もだんだん強まっていった。
ヒョコヒョコと不自然な歩き方をしているのもそうだが、彼女が着ているのは80年代に流行ったいわゆるボディコンなのと、髪型もその頃に流行ったワンレンだったからだ。

更に近付いていくと違和感はピークに達した。
彼女の服は泥で汚れ、所々破れていて胸もはだけていた。
膝から血を流し、不自然な歩き方は靴を片方しか履いていないからだった。
彼女はレイプされたに違いないと直感で感じた。

私は彼女の横に車を停めると「どうしたの?大丈夫?」と声を掛けた。
車のすぐ横に立つ彼女の顔はルーフに遮られて見えないが、露になった胸が私の目の前にあった。

「私も連れてって・・・」そう彼女は声を発した。

「どうしたの?大丈夫?」との私の問いに対する返事としてはあまりにも噛みあわない答えだ。
私は「え?」と声を発しながら身を屈めて彼女の顔を覗き込んだ。

「!!!!!」

私は声を上げる事もできずに息を呑んだ。
唇の端から血を流した彼女の目は明らかに生きている人間の目ではない。
その目からはおよそ生気というものが感じられなかった。

これはまずい!

直感でそう思った私はすぐに車を走らせた。
トンネル内にスキール音と排気音を反響させながら出口を目指す。

「ババババ」という音と共にタコメーターの針が踊る。

動揺してレブリミッターに当ててしまったようだ。
すぐに2速にシフトアップして更に加速を続けた。

ある程度速度が乗ったところで彼女の様子を見ようと左のサイドミラーを覗いた。
しかし、遥か後方に居るはずの彼女は先程と同じ姿勢のまま私の車の横に立っている。
走って追い掛けてきているのではない。
まるで車が止まっているかのごとく、私の車の横に立っているのだ。

そうこうしているうちにトンネルの出口が近付く。
このトンネルの出口はきつい右カーブになっていて、20キロ程度まで速度を落とさなければ曲がりきれない。

トンネルの中で幽霊を見て、急いで逃げたら出口のカーブで事故。
よく聞く話だ。

彼女もそれを狙ってるに違いない。
一刻も早くこの場から去りたいのはやまやまだが、私は前方とスピードメーターを交互に見つめ、確実に20キロまで減速してトンネルを抜けた。

トンネルを抜けて下水処理場の横の道に出るとあとは長い直線だ。
私は再び車を加速させると、様子を見る為に左側を見た。

そこにはまだ彼女が先程と同じように立っていた・・・

暫くすると品川駅からきた道とのT字路にぶつかる。
ここをろくに減速せずに左折すると存在しなかった筈の対向車と事故。
これもよく聞く話だ。

私は完全に車を停止させ、一呼吸置いてから車を左折させた。
彼女を確認する為、もう一度私は左側を見た。

そこには既に彼女の姿はなかった。