今から20年以上前の古い話だが、皆勘弁して聞いてほしい。
あの日、仕事から帰宅途中の俺は特に予定もなく、真っ直ぐ家路についていた。

『カーンカーンカーンカーン・・・』

いつも、横を通り過ぎるだけの踏み切りが右手に見える。
そういえば、この踏み切りを渡った事がないな。
好奇心だった。
俺はその踏み切りの向こうを見てみようと思った。
誰でも、暇な時に通った事のない道を通ってみる事ぐらいあるだろう?そんなノリだった。

『ガタンゴトン・・ガタンゴトン・・』

電車が目の前を通り過ぎ、踏み切りがあがっていった。
初めて通るので、左右をきょろきょろしながら踏み切りを渡る。

ん?渡り終えた踏み切りの左手に、花が飾られていた。

・・人身事故があったんだな・・・かわいそうに・・。

俺は心の中で手を合わせ、その場を後にした。
少し進むとT字路があった。
家の方向が左側になるので、俺は左に曲がった。
そこで俺は不思議なモノと遭遇する。
目に入ったモノ、それは人の行列だった。

一体何の行列だ?俺は最後尾を見つけたのだが、あまりに長い行列なので、前が全然見えない。
ぼーっとしていると、その行列に参加しようとたくさんの人が次々にやってきた。

「ちょ、ちょっと・・わ・・」

俺は後から来たその人達に押されるように、その行列に参加してしまった。
五分もすると、あっというまに俺の後に大量の人が並び、最後尾が見えないくらいになってしまった。

やっかいなものに巻き込まれた・・・。
まあ今日は暇だからいいけど・・・。

なんて思いながらも、好奇心で何の行列かが気になった為、このまま参加する事にした。
・・・それから三時間くらいが過ぎただろうか?時計は夜の八時を指し、あたりはもう真っ暗になっていた。

行列は、一向に前には進まなかった。
並んでいるのに、停まったままだ。
それは、日曜の朝8時くらいのパチンコの行列のように皆停まったまま。
周りの人は、疲れたからか、次々に座りだした。
どうやら、長期戦になるようだ。

俺も、朝キヨスクで買ったサンスポを敷いてそこに座った。
座って少し落ち着いてみると、その行列に違和感を感じた。
皆、ほとんど会話をしていない・・・。

そんな中、俺は昼間の疲れが出て、うとうとして眠ってしまった・・・。

『ざわざわざわざわざわざわ』

「・・・ん・・・?」

あたりがざわめきだして、目が覚めた。
もう明るい・・・。
なんと言うことだ・・・俺は朝までぐっすり寝てしまったようだ。

ドンッ後ろの人の足が背中に当たった。
どうやら行列が進みだしたらしい。
後ろのひとは声をかけてくれたらいいのに、露骨に歩いてぶつかったようなヤリカタをしてくる。
俺はいそいで新聞を丸めてお尻ポケットにねじ込み、行列とともに進みだす事にした。

・・それにしても。。
周りは異様な雰囲気だ・・・。
妙にソワソワしだしている。
俺も、好奇心や流れで一緒に進んではいるが、この先に一体何があるんだろうか・・・。

ふと時計を見る。
・・・え・・・オレは目を疑った。
と、同時に、これはヤバイと第六感が警報を鳴らす。

空はもう明るい。
まぎれもない朝だ。

なのに、時計の針は夜中の二時を指していた。
とめどなく汗が出てきた。

「ご、ごめんなさい!オレ、やっぱりかえります!」

オレは行列から出ようとした。
このまま進むと絶対にヤバイ。
そう思った。
でも、行列が前に進む力は思いのほか強いものだった。

両サイドには、いつしか紐のようなものが貼られ、横からも出れない状況になっていたのだ。

「ごめん、ちょ、ちょっと、出ます!」

周りの者は、誰もオレの声なんて聞いちゃいなかった。
その、『目的地』に全神経が行っているようだった。
俺は直もグイグイ後ろの人に押され、前に進んで行く。
自分の意思とは裏腹に、前へ前へ・・・。

そのまま何分くらい進んだのかはわからない。
とうとう、目的地が見えてきた。

後ろの人間が更に異様な雰囲気になって行くのがわかった。
オレを押す力がだんだんと強くなっているのである。
ふと、目的地付近の人を見た。

目的地に行き、何かを受け取っているようだった。
ソレを受け取った人の表情は、この行列の重圧から解放された喜びか、その受け取ったモノの効力なのか、例えようのないくらいの幸せな表情をしている。
後ろの人たちのざわめきも、だんだんと強くなっていく。

「俺は・・間に合うのか・・」と言っている。

間に合う?一体何が間に合うのだろうか?あそこまで行けば、一体何を受け取れるのだろう?考えてるうちに、俺はとうとうその最終地点にたどり着いた。

そして、そこに居る者に指示を出されたので、ポケットから紙を一枚渡し、名刺入れの二倍くらいの大きさの箱を受け取った。

そうやって、俺は手に入れたのだ。
ドラクエⅣを。

時計?そりゃあ、その帰り道に時計屋に寄って電池換えてもらったさ。
今の時代となっては、あんな不思議な現象はないよな。
本当に思うよ。