あれはまだ、肌寒い頃だったかな。
あたしその日の仕事が夜勤だったんです。
仕事は老人ホーム。

その変な現象がおきたのは夜の7時前。
後輩とおばあちゃんを寝かし、フロアーに戻ったときでした。

「ありがとう」

聞き慣れない声がはっきりと耳元で聞こえた。

えっ?

「ねぇ、今さ誰かありがとうって言わなかった?」って後輩に問い掛けてみた。

「言ってませんが、電気消すよっていいました?」

もちろん私はそんなこと喋っていません。
後輩と二人で顔を見合わせ、えっ?って感じになっていました。

その話をおばちゃんにしたところ、私は下半身が走っているのを見たよって笑って言うのです。
ちょっと今日の夜勤は怖いなぁ・・・と思いながら、遅番二人が帰ってしまったあとに耳元でざわざわと誰かが話をしているのが聞こえました。

おばちゃんはみんな寝ていてテレビもついていません。

怖いので気にしないようにしていたんですが・・・23時頃、物凄い大声で「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」という叫び声が聞こえました。

自分の受け持ちのおばちゃんたちの声ではないと感じました。

声が聞こえたほうの窓を開け、外を眺めると『コツ・・・コツ・・・コツ・・・コツ・・・コツ・・・』とハイヒールで歩く音がきこえました。

私は怖くなり上の階の友達のところへ行き、誰か叫ばなかった?と聞いたのですが、誰も叫んでいないと言うのです。

物凄い不安を抱きながら、持ち場に戻るときにふと上司から聞いた話を思い出した。

以前、認知症じゃないクリアなおじいちゃんから夜中にコールがあり用件を聞いてみると、おじいちゃんの顔は一点を見つめ強張っていた。

「俺の部屋のドアを全部閉めてくれねーか?あのドアの向こうから、髪の長い白い服を着てハイヒールを履いた女がこっちを睨んでるんだよ」

上司はおじいちゃんの様子を直ぐに確認できるようにドアは少しだけ開けておいたそうですが、怖くなり、言われた通りドアを閉めたみたいです。

老人ホームに不釣り合いなハイヒール女の人・・・。
一体何しにきたんでしょうね?

この老人ホームは以前から不可解な出来事が起こることで有名でしたが、名前は伏せさせて下さい。