もう時効だと思うので書きます。
話の中に実在する固有名詞が出てきますが、それを誹謗、中傷するものではありません。

小学四年生の二学期に、誰が持ってきたのか、クラスで『うしろの百太郎』という、心霊コミックが回し読みされ、ちょっとたブームになった事がありました。
こ存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、その作中に妖精の存在を実証する方法が出てくるエピソードがあります。
具体的には、寺社等の清浄な場所に生えている大木の根元に砂山を作り、その頂上を平らに均して鏡を置き、更にその上に薄く砂を被せておきます。
そして砂山の斜面に上り階段を作って一晩おくと、翌日には階段と鏡に被せた砂の上に小さな足跡がついている、というものです。

劇中でこれを行った主人公は、悪戯な妖精に異世界(妖精界?)に引きずり込まれてしまいます。

十月の終わり頃だったろうと思うのですが、クラスでも一二を争うヤンチャ坊主だったT君が、果敢にもこれを試してみたと言い出しました。

T君曰く、試した場所は彼の家の庭の一番大きな木の下という事で、友人達は口々に「それじゃあダメなんじゃないか?」と言いましたが、とにもかくにも結果を見るため、放課後、六~七人くらい連れ立って彼の家に行く事になりました。
私を含め何人かは、「学校に来る前に自分で足跡をつけてきていて、皆を驚かそうとしているんだろう」と思っていました。

T君の家に着くと、早速その庭の木の下に確認に行ったのですが、当のT君が最も驚いた事に、足跡どころか砂山自体がありませんでした。
予想外の展開に皆少なからず興奮し、「これは妖精が消してしまったのだろうか?」などと話し合っていた時、T君のお母さんが現れ、砂山は庭掃除で片付けられた事が判明しました。
また、砂山に埋める鏡を、お母さんのコンパクトを壊して調達していたらしく、T君はお母さんに怒られ、私達は逃げるようにT君の家を後にしました。

翌日、翌々日と、T君は学校を休みました。
そして次の日、先生からT君が死んだと知らされました。

子供でしたので詳しい話は聞かされませんでしたが、少し遠く(隣の学区)に大きなイチョウの樹がある神社がありまして、
T君はその樹の太い枝の上で死んでいたそうです。

洩れ聞こえてきた話を纏めると、コンパクトの件で怒られた日の晩にその鏡を持って家を抜け出したようで、抗議の意味で隠れていたのが、登ったはいいが降りられなくなったのか、とにかくパジャマ姿という薄着だったために夜半の気温低下で衰弱死したという事らしかったです。

大人には言いませんでしたが(言っても取り合って貰えなかったでしょう)私達の間では、T君は今度こそ本格的に儀式を行い、妖精の悪戯で死んだのだと囁かれていました。

なぜなら、その神社は私達の普段の行動範囲の外にあり、家出したからと言って、そこに行く理由がありませんし、行ったとしても、そのイチョウの樹は幹が太くて枝も高く、梯子でもなければ登れないからです。

既に真相は知る由もありませんが、今となってはとにかくT君のお母さんが気の毒だったなと思うばかりです。