あの大震災でメチャクチャになってしまった海岸沿いの、とある神社の話です。

オレは東北某県に住むフリーターで、住んでるのは内陸だけど時々ドライブで海岸線も走ってた。
仕事でムシャクシャしたり家族とうまくいかないと車で海を見に行く。
そんな感じで、A町の海を見に行くのが好きだった。

東日本大震災で被害が大きかったA町(本当になんと言っていいのか分からないくらい大変な思いをしてると思う。ご冥福と、復興を願ってます)だけど、オレは去年の秋を最後に海を見に行かなくなった。
理由は、まあ寒くて海とか見るより家でネットしてた方がストレス解消になるってのと、ある事件があったからだ。

去年の秋、残暑も厳しい季節だったから9月だと思う。
俺はA町の海を見に行った。
車で30分くらいで行けるから何回も通っていたくらい好きだった。
キレイな白い砂浜の海岸から橋が伸びてて島にいけるんだけど、オレは初めて島に行きました。
それまでは海の水を触ったり貝殻見たりしてすぐ帰ってたんだけど、その日は連休で観光客とか親子連れも結構いた。
で、橋を渡って島に行ってる人が結構いたから、俺も行こうと思い立ったわけです。

島の頂上には神社があって、そこまでは結構歩くんだ。
すごく急な石段で、しかもそんなにキレイに作ってない。
まあ普通の体力の大人なら楽勝、なんだろうけど。

オレは軽い気持ちで石段を登り、木々に覆い被された路を登っていった。
途中、降りて来る人たちと幾度かすれ違って挨拶したけど、不思議と登っていくのはオレだけだった。
まあ確か4時か5時頃だったと思うから、時間が遅かっただけだと思ってたんだけど。

登っていくと、すごく体が重くなった。
すごく重い。
息も切れる。
足も震えた。

おかしいとは思ったんだけど俺はデスクワークばっかだから体力がなかったのと、当時ちょっと熱が出やすかったから、そのせいだと思ってた。
でも今思うとそれにしても異常だった。

まるで何かに押さえつけられているかのような負荷なんだ。
足が持ち上がらない。
肩が重い。
心臓も早鐘みたいに打ちまくってた。

冷たい脂汗を流しながら頂上に着くと、確かに神社はあった。
でもその時のオレは体力の限界で、本当におかしな事に周囲の色彩が狂ってた。
頭がわんわんと鳴っていた。
目が回って緑であるはずの木々が灰色に見えたり、本来真っ赤であるはずの鳥居や神社の建物が灰色に見えていた。

色盲とかじゃないよ。
いつもはちゃんと見えてる。

でも俺的に色彩感覚が狂った時がおかしなモノに出会う時、かも知れない。
あくまで俺の経験だけど。
その時俺は霊とか化け物とか考えるより、体の異変で四つん這いになって心臓押さえて唸ってた。
俺一人しか神社にいなくて、それが余計に不安を煽る。

ああ、もしかして心臓発作かな、死ぬのかなって思った。
それくらい苦しかった。

ふと何か気配みたいなものを感じて、四つん這いのまま顔をあげた。

一瞬、息を呑んだ。
何かが立っていた。
それが何かなんて分からなかった。
それは某子ども番組の赤い方に似てた。

「◯ック」みたいに赤いんだよ。

色彩が狂った世界でその赤い何かの周辺だけが色づいていた。
赤いそいつの周辺だけ緑色が生きてて、少し神聖な感じもしたけど、苦しくて化け物みたいな感じもした。
俺が息を呑んでぞっとした瞬間、そいつは消えた。

いや、初めからいなかったみたいに気配が消えたんだ。
急に色彩が戻ってきた。

それで「ここにいない方がいい」って思った。

心霊に何かされる、みたいな恐怖もあったけど、それより何か「神聖なモノ」の怒りに触れたみたいで、怖くなった。

俺はすぐさま、神社を後にしました。
帰りはそれほど辛くなかったのが不思議です。
橋を通る頃には周囲に人影も多くなり、俺の呼吸も大分安定していました。
何かを背負っているような感じも消えてたし。
それ以来、なんとなく足が遠くなった。
怖かったのもあるし、他の神社に行ってもそういう何かに会いそうで、怖くなった。
まったく根拠はないんだけどね。

そしてあの大震災です。
俺がそいつに出会ったのは9月だから、どんな関係が?ってツッコまれたら何も言えない。
まさか俺を助けてくれた、とかは考えなかった。
だって時間空きすぎだし。

俺だけじゃないけど、震災で知り合いが亡くなったり、好きだったのに壊れてしまった街を見るのは、辛いと思う。
俺はA町に知り合いはいないし、関わりも無い。

ただ景色や海が好きだったって人間だから、野次馬しに行ってボランティアや現地の人たちの邪魔になるのは出来なかった。
ボラティアも行けませんでした。(震災による停電で一週間業務がストップ、会社はあるけど俺は退職。食料やガソリンを確保するのにいっぱいいっぱい)

本当にキレイな海岸が壊れた景色を見るのも怖かった。
で、今日になってやっと「あの神社は何と言っただろう」って急に気になった。
で、ネットで簡単に調べたんだ。
そうしたら、以下のような事が分かった。

・その神社に登るための石段の入り口には「登れない人」のために神棚のようなものがある。(俺は気づかなかった)
・神社の鳥居や建物は真っ赤。(最後までぼんやりだけど色彩感覚が狂った俺には灰色に見えていた)
・祀られているものの一つは、真っ赤な天狗。

最後の天狗は、震災前の祭の写真を見ました。
写真では服を着ていましたが、服を脱がせて顔をちょっと崩したら、俺が見たあの赤いのにそっくりでした。
今日、ついさっき知ったんです。

あの日、俺が苦しさを覚えて四つん這いになるほどの急な石段でも、子どもや老人も参拝に訪れていたようでした。
俺の体がヘタレなのはともかく、あの異常な苦しさはまるで「拒まれているよう」な感じでした。

俺がイヤなヤツだから入れないぞ、みたいな空気も感じたけど、同時に「逃げなさい早く」みたいなものもあった気がする。
体調不良だった、と言えばそれまでだけど。

もしあれが神様みたいなものだったなら、とか考えると、もしかしたら守られたのかな、なんて思ってしまって悲しくなる。
もう少し落ち着いたら、またあの海に行こうと思います。
あの海が好きなのは変わらないから。

長文な上、乱筆失礼しました。